2026年9月18日
YouTuberのGoogle AdSense広告収入は「国外取引だから不課税」というのが長年の実務上の共通理解でした。ところが令和7年1月8日の国税不服審判所裁決は、事務所(MCN)に専属契約で所属しているクリエイターについて、この収入を国内取引・課税取引と認定しました。ポイントは「誰から直接お金をもらっているか」ではなく、「実態として誰に役務を提供しているか」です。
この記事は、滋賀県草津市の税理士事務所「増井・阪口税理士事務所」代表の阪口が執筆しています。当事務所は全国のお客様に対応するクラウド完結型の税務顧問サービスを提供しています。代表自身もYouTuberとして活動しており、またYouTubeで情報発信をしつつ、企業案件や物販等でマネタイズを行うSNS事業者の税務顧問も務めていることから、今回のようなクリエイター課税の実務論点には人一倍関心を持って向き合っています。
もくじ
Toggleまず押さえておきたい原則:AdSense収入は本来「不課税」
Google AdSenseの広告収入は、消費税法上「電気通信利用役務の提供」に区分されます。平成27年度税制改正で、この種の取引の内外判定(国内取引か国外取引か)は、サービスを提供する側の所在地ではなく、サービスの提供を受ける側の所在地で決まるようになりました(消費税法4条3項3号)。
AdSenseの契約主体はシンガポール法人のGoogle Asia Pacific Pte. Ltd.です。つまり、クリエイターが広告収入を直接受け取っている限り、「役務の提供を受ける者」は国外に所在することになり、課税の4要件のうち「国内において行うもの」という要件を満たさず、不課税取引となるのが原則です。多くのYouTuber向け税務解説で説明されている一般論はこの通りです。
争われた事件:令和7年1月8日裁決(東裁(諸)令6-101)
この原則が崩れたのが、令和7年1月8日の国税不服審判所裁決です。
請求人は複数のYouTubeチャンネルを運営するクリエイターで、平成29年12月、国内のMCN(マルチチャンネルネットワーク)運営法人と「専属プロデュース契約」を締結していました。一方でこのMCN法人は、平成25年12月にGoogle側と「コンテンツ管理契約」を結んでおり、請求人の動画はこの契約に基づいてGoogleに利用許諾される形になっていました。
請求人の主張はシンプルで、「MCNは広告収入を代理受領しているだけで、実質的な役務提供の相手はGoogle(国外法人)である以上、契約前と収入の性質は変わらず不課税のはずだ」というものでした。
これに対して審判所は、次の3点を事実認定の柱として、請求人の役務提供先はMCN(国内法人)であると判断しました。
- 専属性と第三者契約への制約 — 請求人はMCNに対して専属的に業務を委託しており、第三者と契約を結ぶ際にはMCNの事前承諾が必要とされていた。
- 動画の管理・利用許諾の構造 — 契約期間中、各チャンネルの動画はMCNのコンテンツ管理契約に基づいてGoogleに利用許諾されており、動画の管理責任もMCNが負っていた。
- 収入の流れと裁量 — MCNはGoogleから収入の全額を受領したうえで、請求人に動画制作等の役務提供の対価として一定額を支払う、という構造になっていた。
そのうえで審判所は、請求人が展開した「単なる代理受領だ」という反論を退けています。具体的には、(1) 契約前と実質は変わらないという主張に対しては、MCNとの契約締結によって新たにMCNに対する役務提供の関係が生じたこと、(2) MCNから具体的な指示を受けていないという主張に対しては、指示の有無は提供先の判断を左右しないこと、(3) 代理受領にすぎないという主張に対しては、MCNが動画の管理責任を負い、自らの裁量で請求人への支払額を決定していた以上、単なる代理受領とは認められないこと——という理由でそれぞれ排斥しました。
結論としてこの収入は、「請求人がGoogleに対して行った電気通信利用役務の提供の対価」ではなく、「請求人MCN(国内法人)に対して行った役務提供の対価」と認定され、国内取引として消費税の課税対象とされました。
結局、何が分かれ目なのか
表面的には「直接もらっているか、事務所を挙んでいるか」という受け取り方の違いに見えますが、審判所が実際に見ているのはもう一段深いところです。単に事務所名義の口座を経由しているかどうかではなく、次の3つの実態が重なるほど、国内取引・課税取引と判断されやすくなります。
| 見るポイント | 国内取引に近づく実態 | 不課税のままの実態 |
|---|---|---|
| 契約の拘束度 | 専属契約で、クリエイター活動が事務所の統制下にある | ・非専属で、他の取引先も自由に選べる |
| 動画の利用許諾・管理責任 | 事務所がGoogleへの利用許諾と管理責任を持つ | クリエイター本人がGoogleと直接の関係を保つ |
| 収入の受領・分配 | 事務所が全額受領し、自らの裁量で分配額を決める | 事務所はあくまで取次ぐだけで、分配の裁量なし |
この実態が重なるほど、「クリエイターは事務所に役務提供し、事務所が対価を支払っている」という整理に近づき、国内取引・課税取引と判断されやすくなります。逆に、名目上は代理店やマネジメント会社を名乗っていても、専属拘束がなく、収入の算定・分配に事務所側の裁量が働かない「純粋な取次ぎ」であれば、この裁決の射程はそのまま当てはまらない可能性があります。契約書の文言よりも、実際の力関係・お金の流れが決め手になっている点が実務上重要です。
実務への影響
インフルエンサー事務所やMCNに専属契約で所属しているクリエイターは、これまで「AdSense収入だから不課税」と処理していた場合でも、契約の実態次第で課税売上として消費税の申告義務が生じている可能性があります。基準期間の課税売上高1,000万円を超えていないか、インボイス登録の必要性も含めて、契約内容を一度点検する価値があります。
一方、個人で直接AdSenseアカウントを運用し、事務所を介さず広告収入を受け取っている場合は、従来通り不課税という整理が原則として維持されます。
なお、これは個別事案の裁決であり、契約内容や実際の運用実態によって結論は変わり得ます。所属先との契約書(専属条項、第三者契約への承諾要否、収入分配の決定権の所在など)を具体的に確認したうえで判断する必要があります。
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