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ITツールと業務効率化の罠

滋賀県草津市で税理士業を営む税理士の阪口倫造(さかぐちみちぞう)です。

近年、技術の進化は著しく、事務会計の分野でも多くの便利なITツールが登場しています。

私自身、今でも魅力的なITツールを目にすると、「これを使えば○○業務が効率化できて、楽になりそうだ!」と考え、すぐに導入したくなってしまいます。
しかし、開業税理士になってから何度か痛い失敗を経験したことで、よく分かるようになりました。ITツールを導入するだけでは、業務効率化は実現しないということです。

ITツール導入の前にするべきこと

ITツールを導入して業務効率化を実現したい場合には、

まず、業務を効率化するためには、「棚卸し」が必要です。
ここでいう棚卸しとは、もちろん会計上の棚卸しではなく、業務の流れを整理・可視化することを意味します。

具体的には、業務を一つひとつの工程に分解し、小さなタスクレベルにまで落とし込んでいく作業です。
例えば「メール対応」という業務であれば、
「パソコンを立ち上げる」→「メールソフトを起動する」→「送受信を実行する」→「未対応のメールを探す」→「返信文の作成」→「誤字脱字の確認・修正」→「再度全体をチェックする」→「送信する」
といった具合に、工程を細かく分けることができます。

ITツールを導入するかどうかの判断を行うのは、まだ先になります。

業務の棚卸後にするべきこと

業務の棚卸しが終わったら、次に行うのは、細かく分解した工程のうち「省略できるもの」と「他の手段で代替できそうなもの」を見極めることです。

まず、「省略できそうなもの」があれば、思い切って省略してみましょう。一定期間試してみて特に支障がなければ、そのまま省略してしまって問題ありません。これが最もシンプルで効果的な効率化の方法です。

次に、「他の手段で代替できそうなもの」については、代替によって実際に作業時間が短縮されるかどうかを基準に、慎重に検討します。

そして、ITツールの導入を検討するのは、ようやくこの段階です。ツールありきではなく、業務を見直した上で、本当に必要なものだけを導入することが重要です。

先ほどの「メール対応」の例でいえば、時短効果が見込めるのは「返信文の作成」と「誤字脱字の確認・修正」の工程だと思います。

ITツールとは少し異なるかもしれませんが、ChatGPTやCopilotといった生成AIを活用すれば、カジュアルな文章をビジネスメールに変換することも可能です。
また、AIが生成する文章は誤字脱字が少なく、確認・修正の手間も大幅に削減できます。最終的にはAIが作成した文章を人間が軽くチェック・調整するという運用が、現実的で効果的でしょう。

ちなみに、「パソコンの立ち上げ」から「送受信ボタンを押す」までの一連の作業については、RPAを使えば自動化も可能です。
ただし、この程度の動作であれば、人の手で行った方が速く、かつ安定しているというのが、私の経験上の実感です。

業務効率化はコツコツ積み上げていくもの

今回は「メール対応」に絞ってお話ししましたが、たとえひとつの小さな業務であっても、動作を細かく分解し、それぞれを省略・代替していくことで、確実に効率化を図ることが可能です。

業務効率化とは、一つひとつの業務を丁寧に棚卸しし、不要な工程を省き、時短可能な部分を他の手段に置き換えていく──その地道な積み重ねの中で実現されるものです。
「このITツールを導入すれば、すぐに業務が効率化する!」という考えは幻想であり、現実逃避に過ぎません。

本当に業務を効率化したいのであれば、一つひとつの業務と向き合い、着実に“手数”を減らしていく努力が必要です。